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新日本監査法人の業務停止の可能性とその影響についての考察

 

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photo by x1klima

最近、「新日本監査法人 業務停止」「新日本監査法人 解散」というキーワードでの検索で来られる方が多いようです。

東芝の監査をしていた新日本監査法人が、東芝の一連の不正を見抜けなかったことから、金融庁から業務停止の処分を受けるのでは?という憶測が広がっているのでしょう。
 

 

biz-journal.jp

「新日本に対し、金融庁は業務改善だけでなく、『一定期間の業務停止命令』を視野に入れて事態の推移を静観しているもよう」(関係筋)。
↑実際、このような報道もありました。
まず、私の個人的な見解としては、業務停止の可能性はかなり低いと思っています。
その前提で、もしも万が一、新日本監査法人に業務停止処分が課された場合、どのようなことが起きるか、監査クライアント、職員、監査法人そのものの3つの視点で考えてみます。

業務停止処分の可能性

まずは、業務停止処分の可能性について考えてみましょう。

見逃した粉飾金額の大きさ

東芝の不正会計は、当初考えられていたよりも大規模なものだったようで、不正会計の影響を修正すると、修正前は前期・当期共に黒字だったものが、修正後は赤字になるようです。

www.sankei.com

平成27年3月期連結決算の最終損益は赤字に転落する見通しになり、原子力半導体事業の資産価値の見直しなどで1750億円の損失を計上することを明らかにした。
これまで、東芝の不正に関しては、額こそ大きいものの、会社規模に比べれば大きなインパクトのある額ではないなどといわれてきました。
しかし、第三者委員会の調査、それを受けての監査法人の追加の監査によって、粉飾額実態は赤字だったものを黒字に粉飾していたということで、当初考えられていたより悪質性が高い粉飾だったということがわかってきています。

過去の事例との比較

これまで、金融庁から業務停止命令を受けた監査法人は、唯一、カネボウを監査していた中央青山監査法人(業務停止処分を受けた時には、みすず監査法人に改名)のみです。
確かに、東芝の不正会計については、カネボウと同じかそれ以上の規模のものになりそうです。しかも、これまでの報道によると本来であれば2期連続の赤字とすべき決算を2期とも黒字にする決算としていて、粉飾額の相対的な重要性もカネボウに匹敵するものとなっています。
逮捕者が出た中央青山
粉飾を見抜けなかった、監査法人側の落ち度について目を向けてみると、カネボウ粉飾決算の際には、監査を担当していた会計士3名が、不正の事実を知りながらも、適正意見を出した(つまり、粉飾決算にOKを出した)として、3名逮捕されています。
東芝の監査を担当していた会計士が、粉飾の事実を知っていたかどうかについては、今のところわかっていません。
この点に関して、東芝の監査に問題がなかったかどうかについて、現在、公認会計士協会が調査をしています。
もしも、担当していた会計士が不正の事実を知っていて見逃していたという事実があった場合には、業務停止の可能性は否定できません。
ただ、今のところ、監査に問題があったとか、監査法人が不正の事実を事前に知っていたとかいう情報は出てきていません。

業務停止になったらどうなるか

では、もし仮に、新日本監査法人に業務停止処分が課された場合、どのようなことが起きるか、監査クライアント、職員、監査法人そのものの3つの視点で考えてみます。

監査クライアント

新日本監査法人は、3大監査法人と言われる大手監査法人の中でも、業務収入、監査クライアント共にNo.1です。
新日本監査法人のHPによると、2015年6月末時点の被監査企業の数は4,085、そのうち上場企業等に対する監査である金商法監査は1,030社で、金商法監査を受けている企業はおよそ3,500社*1ですから、上場企業のおよそ3割を新日本監査法人が監査していることになります。
監査難民
証券取引所上場廃止ルールの一つに、有価証券報告書の提出遅延という項目があります。ここでいう有価証券報告書には、監査法人公認会計士が署名した監査報告書が添付されていなければなりません。
つまり、期限までに有価証券報告書を作成したとしても、監査法人からの監査報告書がもらえなければ上場廃止となってしまうのです。
中央青山が破綻した時は、監査難民が出るのではなどと言われたが、なんとか他の監査法人に引き継いで難を逃れました。
ある大手監査法人は、みすずが監査を引き受けていた企業に対して事前の受け入れ審査を行ったところ、20社強の審査が終わった時点で2社の受け入れ拒否を決めた。ということは、かなりの数の“難民”が出てきても不思議ではない。
ところが、監査に従事する会計士の数は近年減少傾向にあり、業界内の人手不足か叫ばれる中、他法人が、これだけ大量の監査クライアントを受け入れる余裕はないような気がします。
また、監査の品質の低い監査法人はある程度淘汰されているため、いままでリスクが高めの企業の監査を担当していた、駆け込み寺的な監査法人がほとんどない。
 
今回は、本当に監査報告書をもらえない「監査難民」が現れる可能性が出てくるのではないでしょうか。
↓こちらは、中央青山監査法人の解散直前の記事ですが、現在の新日本監査法人の規模を考えると、このときよりも大きな混乱になるのは間違いないでしょう。

toyokeizai.net

 

監査法人

かつて中央青山監査法人が解散した時、解散命令は出ていません。金融庁から発動されたのは、あくまで2ヶ月間の業務停止命令です。
ただ業務停止命令を受けての他監査法人への一時監査人の選任等の混乱の中で、主要クライアント、多数の職員を他法人に引き抜かれたこと、中央青山監査法人に対する監査の品質に対する信頼が失墜したことなどから、監査法人として存続することが困難と判断し、自主的に解散することとなりました。
新日本監査法人についても、もしも中央青山と同様に2ヶ月間の業務停止処分という厳しい処分が下されれば、解散する可能性は非常に高いでしょう。 

職員

大手監査法人はどこも人出不足です。業務停止処分が出た瞬間に、他法人からの引き抜き合戦が始まることと思われます。
大規模な監査クライアントを引き継いだ場合、監査に必要な人員をすぐに確保するのは難しいでしょうから、基本的には、主に担当していた監査クライアントの監査が引継がれた監査法人に移籍することになるとおもいます。
みすず監査法人(旧中央青山監査法人)が解散する直前も、監査チーム単位での引き抜きというのが行われていようです。
監査法人はどこも人手不足。大企業グループの監査には100人が必要なケースもあり、これまでのあずさの陣容で対応するのは難しい。このためある大企業を担当するみすずの監査チームに「そのままそっくり移籍していただきたい」という露骨な打診があったという。
新法人への移籍
また、監査法人の職員たちの選択肢として、主要メンバーで新法人を立ち上げて、人員・クライアントをそちらに移管するという手段も考えられます。
中央青山監査法人に業務停止命令が出た際には、中央青山の一部の社員・職員が中央青山から離脱し、「あらた監査法人」を立ち上げ、主要なクライアントと職員を引継ぎました。
業務停止命令は法人に対して出ているため、中身が同じでも法人格さえ変わっていれば問題ないのです。
つまり、社員・職員全員がやどかりのように入れ物(監査法人)を変え、引き続き監査を継続することも可能といえば可能です。
あらた監査法人の設立は、中央青山監査法人の業務提携先であるPwCの意向だったということです。
E&Yにとって、まだまだアジアの中で存在感のある日本のマーケットをなくすのは痛いでしょうから、簡単に撤退するとは思えません。
したがって、「新・新日本監査法人」や「E&Y監査法人」のようなあらたな監査法人を設立して、クライアント、職員を引き継ぐことも大いに考えられます。
 

まとめ

大手監査法人に業務停止が起きたらどうなるか?中央青山が業務停止処分を受けた時のことを参考に想像してみました。
当時、監査法人業界で起きていたことは、「監査難民」という本に詳しく書かれています。

 

 

 

監査難民 (講談社BIZ)

監査難民 (講談社BIZ)

 

 

 

 

もしもいま、大手監査法人のどこかが業務停止を受けたら、大変な混乱が起きるのは間違いなさそうです。
 
 
 

*1:2015 年版上場企業監査人・監査報酬実態調査報告書によると、金商法監査を受けている会社は3,528社